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カテゴリー:短編

短編小説

(全9話)

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タイトル

2010/02/09

Face


本文




カエルは訊いた。
「キミは僕のことを醜いと思っているんですか」

わたしは答えた。
「ええ、わたしはあなたが醜いと思っているわ」


 その日のわたしは、きっととても疲れていた。
そうでないと、あんな行動考えられない。
いつもの昼休み、学校の屋上で空を見ていたら、ふと、コンクリートの上に佇む小さな塊に気が付いた。
近づいて見てみると、それは小さな、ほんとうに小さなカエルだった。
親指の先ほどしかない。
わたしはさして何も考えずに、ソレを摘み上げると、

屋上の柵の向こうへ、放り投げた。


風に舞うようにしながら落下していくカエルを見て、また日常に戻った。

……はずだった。


 教室に戻ったわたしは、すぐに異常に気が付いた。
そして自分の目を疑った。

……みんなカエルになっていた。

頭だけがみんなカエルだ。
皆同じかと思えば、意外と個性がある。
「どうかした?」
 近くにいた、男子の制服を着た茶色いいぼいぼのカエル頭がそう言った。
「ううん、なんでもない」
 声までもがカエルのようなクルクルしたものになっている。
 緑のつるりとしたカエル頭、毒々しい赤い頭、黄色や黒っぽいのものもいる。
こんなにたくさんのカエル頭に囲まれて、これはきっと目の錯覚だと感じた。
さっき、あんなことしたから、頭がちょっと混乱してるんだわ。
 頭がカエルになったところで、日常は滞りなく過ぎていく。

 その日の帰り道。
今度は本当に偶然に、白い猫が白い車にはねられるのを目撃してしまった。
出会い頭というわけじゃなく、猫が車の前に飛び出してしまったようだ。
これは痛そう。さすがに、目を背けて、すぐには猫を見られずに少し歩いて。
それでも、無事かどうかだけ確かめたくて、ちら、と白い姿に目をやる。
はねた車から降りてきた運転手が、猫をちょうど抱えているところだ。
だが。
その運転手の頭が、白猫のものになっていた。
後頭部しか見えないけど、確かにあれは猫の頭。
たまたまかぶりものをかぶって運転していたんじゃなければ、間違いなく猫。

 カエルよりはマシかしら。

そんなことを考えて、家に帰り着く。
 案の定、パパもママも兄さんも、みんな猫になっていた。
パパは灰色のぱっとしない猫頭。
ママはオレンジの猫頭。
兄さんは、意外とカッコいい黒猫頭。
 猫頭になったって、生活になんら問題なし。

 食事の後、二階にある自分の部屋に戻ってから、やっと鏡を見ようと思い立った。
ずっと忘れていた。
自分の頭も、変わっていたのだろうか。
 おそるおそる、でもわくわくしながら、手のひらほどの手鏡を机の引出しから取り出し。
裏返しのそれを、ゆっくりとひっくり返す。
 そこには、一匹のカエル頭。
「え?」
 そう発声したはずが、鏡の中のカエルは口を開こうともせず、じっとわたしを見つめている。
「なによ、猫じゃないの?」
 カエルは、普通にどこにでもいそうなアマガエルだ。濡れたような黒い目。てらてらしているお肌。首からしたは、まだ学校の制服のままで。
「キミは」
 鏡は鏡の役割を果たさず、中のカエルが勝手にしゃべりだす。
「キミは、僕のことを醜いと思っているんですか」
 そういえば、屋上で会ったカエルは、アマガエルだったような気がする。
「ええ、わたしはあなたが醜いと思っているわ」
 また、さして深く考えることなく、私は答えた。

 ガシャアン!!

 家の前に通る細い道路で、何かがぶつかったような激しい音がした。
驚いて窓を開けて、下を覗き込む。
夕焼けの赤にすべてが染まる中。
あまりよく見えないけれど、前がひしゃげた車と塀の間から、夕焼けのそれじゃない赤い色が見えた。
 鏡を見ると、そこには朝のわたしが映っていた。


 あまり疲れを溜め込まないこと。
そして、何も考えずに生き物の命を取らないこと。
これを覚えた一日だった。
  
 でも、退屈でどうしようもなくなったら、もしかしたら、また……。

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