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「短ばか」保管所

桃太郎の七。 青天目直~藍藍~キテレツ

2010/02/02

1:.青天目直


 それは家族の団欒でのことだった。炉端で温々と寛いでいた僕は、突然の姉の発言で一気に凍りつくことになる。

「明日から“オニガシマランド”に行くわ!」

「はあぁ!?」

 “オニガシマランド”。その言葉に僕だけでなく一家全員が固まった。

「お・・オニガシマランドって、あの有名な・・?」
「あ、あんな所・・うんと遠いんじゃよ?」

 お爺さんもお婆さんも困惑の表情で姉を問いただす。無理もない。山あいに住む僕らにとって、海に浮かぶ島“オニガシマランド”は外国と言ってもいいくらい縁の遠い場所なのだ。それに子供が遠足気分で行くような所じゃない。

「行くと言ったら、行くのよ!」

「はあ・・」

 姉はいつもこうだった。一度決めたら絶対に変えようとしない。思いついたら猪のごとく猛進するので、「乙事主(おっことぬし)の再来」とか「無敵モード」、もしくは「少女版ランボー怒りのシベリア超特急」などと呼ばれている。その姉が、今度はキッと僕を見て命令を下した。

「ロー! 今夜のうちに旅の準備をしておくのよ! 当然私のも用意してね! パンツはピンクのリボンのついたやつ入れておいて!!」 
「えっ・・や、やっぱり僕も行くの?」

 うすうす分かっていたけれど・・。姉は僕を供に従えて行くつもりなのだ。
 そう、僕はいつも姉に振り回されていた。共に育った双子の姉、モモッタに。

***

 僕はロー。お爺さんとお婆さん、そして姉のモモッタと一緒に暮らしている。
 僕らの家の近くには川があるんだけど、モモッタと僕は生まれたての赤ん坊の姿で「どんぶらこっこ」と流れてきたんだと聞いている。この上手の渓谷には人っ子一人住んでいないのに、だ。

「二人ともでっかい桃に並んで入ってたんじゃよ」

 とお爺さんは言うけれど、最近ボケが進んでいるっぽいので適当に相づちをしている。一家の大黒柱がこの様子では、まだ義務教育を終えていない僕らの今後がちょっと気掛かりだ。

 とはいえお爺さんもお婆さんも血の繋がっていない僕らをとても可愛がってくれた。お蔭で二人とも元気に成長している。
 この頃モモッタは、少ぉし「女の子」っぽくなった。
 (見た目だけ! 中身は僕なんかよりずっとガサツで乱暴だ)
 僕は、お爺さんの布団の下に隠してあった『悶絶!エロかわ乙姫 in竜宮城』なんていうDVDのケースを見ただけで何だかムズムズするお年頃だ。

***

「じゃあお爺さんお婆さん、行ってきまーす!」
「行ってきます・・」
 意気揚々のモモッタに続いて、二人分の荷物を背負った僕はトボトボと歩き出した。

「気をつけて行くんじゃよ」
「きび団子、落とさぬようにな・・」

 振り向くと、古ぼけた家の前でお爺さんとお婆さんが並んで僕らを見送っていた。僕は急に二人の背が縮んだように感じた。今まで気付かなかった。二人ともこんなにちっちゃかったっけ?

「お土産持って帰るからね」

 僕はようやくそれだけ言って、再び前を向いてモモッタの背中を追った。モモッタはお爺さんから貰った伝家の宝刀を腰に下げ、軽い足取りで海を目指している。

 こうして僕らの旅が始まった。
 悪名高い「オニ族」が住むという彼方の地、オニガシマランドへ・・。


2:藍藍


「‥‥ねぇ、モモッタ」
 姉はオニガシマランドをテーマパークと勘違いしているのかもしれない。
 あそこには、「今日のマウスケツールは何かな?」なんて裏声をするマスコットキャラクターはいない。恐ろしいオニ族だけだ。
「なんでオニガシマランドに行くの?」
「ばかねぇ、ローは」
 しみじみ言われると結構傷つく。ローのおばかさん、くらいに言ってくれたほうがましだ。
「悪いやつはお宝を溜め込んでるものなのよ。不景気だとしてもね。今年はリーマンショックからたった1年しか経ってないのよ? クリスマスもお年玉も期待できないじゃない。だからオニガシマランドにいくのよ」
 どうしよう。僕にはまったく意味がわからない。
「ほら、しゃきっとしなさい!」
 相変わらず意気揚々のモモッタ。そして相変わらず二人分の荷物を背負った僕。僕に言わせれば既にオニガシマランドだ。


 しばらくすると、大荷物を持った犬、雉、猿に出会った。行き先を尋ねた姉に、犬がムフリと笑う。
「悪いやつはお宝を溜め込んでるものなのだよ。不景気だとしてもね。今年はリーマンショックからたった1年しか経ってないのだよ? クリスマスもお年玉も期待できないじゃないか。だからオニガシマランドにいくのだよ」
 どうしよう。僕にはまったく意味がわからない。
 姉は「あらそうなの」とだけ答え、僕の袖を引くなり木陰まで駆け出した。何やら深刻そうだ。
「先を越されちゃうわ。キビ団子に毒を詰めたからこれを食べさせてきて」
「できるわけないよ!」
「ご褒美に、私の胸をふたもみさせてもいいのよ?」
 ちらりと胸元を見せ付ける。
「5もみ」
 もーしょうがないわね、と姉。僕は勇ましく駆け出した。


 怪しまれないよう、僕は限界以上の笑みを浮かべてキビ団子を差し出した。
「これ、差し入れです。腹が減ってはなんとやら、って言うでしょう?」
「ああ、木から落ちる、ですよ」
 猿が軽く頷きながら言い放つ。全然違うんだけど、突っ込むのはやめておいた。
 それから数分後、僕の足元には苦しみもがく動物達。僕は勇ましく駆け出した。
「さあ約束どおり!」
 僕の両手が真っ赤に燃える。くらえ、シャイニングー
「実の姉に何欲情してるの? バカじゃない?」
 姉は伝家の宝刀を引き抜いていた。そんなばかな、素手で勝てるはずがない。
 僕はボコボコにされた。


 「う、うう‥‥」
 姉の姿はもう見えない。僕のことなんか都合の良い男としか見てなかったんだ。もうやめよう、何もかも。
 そんな風に地面をなめながら泣いていると、目の前に3つの影。
「結局お前も捨て駒だったんだな」
 キジが哀れんだ瞳を僕に向ける。
「どうだい、俺達と一緒に来ないか? オニガシマランドへ行って、一花咲かせようぜ」
 すっと差し出される猿の手。控えめに握り締めると、大きくて、温かかった。
「そうだよね、こういうの何て言うんだったかな。七転‥‥」
「棒にあたる、だ」
 犬が軽く頷きながら言い放つ。全然違うんだけど、突っ込むのはやめておいた。


 待ってろよ、オニ族、そしてモモッタ。
 僕は4人分の荷物を持って、意気揚々と歩き出した。


3:キテレツ


 海に浮かぶ島“オニガシマランド”。
 そこは麻雀に取り憑かれたオニ族達が住む、孤島の賭博場だ。
 島には巨大な麻雀闘技場が築かれ、観客席に囲まれたリングの上に一台の麻雀卓が用意されていた。

「あ、あれはモモッタじゃないか!」
 リングの上には三人のオニ族と共に、姉の姿があった。

 戦闘開始のゴングが鳴ると、オニ族達は、身軽なフットワークでモモッタを攻め立てた。
「ポン!」「チー!」「ポン!」
 三人はあっという間にテンパイ気配となった。
「くっくっく。覚悟はできたかい、お嬢ちゃん?」
 オニ達の笑い声を無視して、モモッタは牌を引き寄せた。
「ツモ。小四喜、字一色、四暗刻よ。大四喜じゃないなんて、ツイてないわね」
「ぐ、ぐぱあああっ」
 オニ達は、三人とも同時に吐血して倒れた。
 その後も別のオニ達による挑戦は次から次へと続いたが、ことごとく敗れては血を吐いて倒れていった。


 そのとき、颯爽とリングに乱入する三つの影があった。
「少々やり過ぎたようだな」
「昔から言うだろう。雉も鳴かずば……」
「撃たれまい、ってな」
 それは犬猿雉の三匹だった。言葉は合っているが、お前ら(特に雉)が言うな。

 ゴングが鳴り、戦いが始まった。配牌を手にしたモモッタはおもむろに言った。
「あらアガってるわ。天和よ」
「ごふっっ」
 もがき苦しむ三匹にモモッタは追い討ちをかけた。
「ついでに九連宝燈も付いているわね」
「ぐぱあああああっっ」
 三匹は吐血するばかりか、鼻血と耳血も一緒に噴き出して倒れた。
 モモッタは三匹の姿を見て、くっくっと笑った。


「あの娘、このままいくとオニに化けるな……」
 僕の傍で観戦していた年老いたオニが呟いたのを、僕は聞き逃さなかった。
「ちょっと、その話、詳しく聞かせてください!」
 僕は彼に迫って、真意を問い質した。

 老オニの話はこうだ。
 オニ族も元はただの麻雀好きな人間だった。だが、勝負に明け暮れて敗者を蹴落としていくうちに人間の心を失い、やがて額に角を生やした「オニ族」となったというのだ。
 僕の姉がオニになってしまうだなんて……。今でも恐ろしいのに、この上オニになんてさせてたまるか! 僕は姉の連勝を止めようと、強く決意した。


「モモッタ、勝負だ!」
「あら、誰かと思えばローじゃない。ふふん、返り討ちにしてあげるわ」
 こうして僕とモモッタの勝負が始まった。

 僕は一局目から動きまわって、早いアガりを目指した。モモッタに大物手をアガらせない作戦だ。
「ツモ、タンヤオのみ」「ロン、三色同順のみ」「ツモ、發、ドラ一」
 僕は快調にアガっていった。僕にもモモッタの何分の一かは強運の血が流れているのかもしれない。
「安い手ばかりアガって、男らしくないわね」
 モモッタは不平を言うが、僕は気にしなかった。

 いよいよ最終局。
「僕がアガれば僕の勝ちだ!」
「何よ。わたしが役満をアガればわたしの勝ちよ!」
 いやそんなに点差離れてないし。
 モモッタは序盤からツモ切りを繰り返していた。「あーもう!」との苛立ち具合を見れば、テンパイしていないことは一目瞭然だった。なんてわかりやすい姉だ。
 僕は落ち着いて、目当ての牌を引いてきた。
「ツモ。門前自模のみ。モモッタ、これで僕の勝ちだね」


 こうして僕とモモッタの旅は終わった。
 オニガシマランドを去るとき、モモッタは僕の手を握ってくやし泣きをしながらも、勝ち越した分の現金はもう片方の腕でしっかり胸に抱えていた。
「さすがのモモッタも、今回はちょっと懲りたかな?」
 僕は帰り際に訊ねてみた。
「そうね。今度は“竜宮キャッスル”に行くことにするわ」
 泣きながらも強気な姿勢を崩さない姉が、なんだかいとおしく思えてきた。
「そのときはまた僕も連れていってね」
「さあて、どうだかね」
 そうやってはぐらかす姉も僕は好きだ。僕達はお爺さんとお婆さんが待つ家へと向かう道の途中、そんな他愛もないやり取りを続けた。


(完)

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